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低カロリー食で色素性痒疹出現。血中ケトン体高値単独では出現しない。
【17/10/23 中嶋一雄
ケトン食の副作用
 ケトン食関係の文献を調べても、副作用として「色素性痒疹」は報告されていません。

 色素性痒疹が発症するのは、飢餓的な病的ケトーシスの場合であって、十分なカロリー摂取を行った生理的ケトーシスの場合は、色素性痒疹はおこらないのでしょうか】



中嶋一雄 先生

情報をありがとうございます。
確かに
「ケトン食の基礎から実践まで」診断と治療社・藤井達哉監修・2011

の、14~16ページ及びに33~42ページに
ケトン食の副作用・合併症について詳細に記載されていますが、
色素性痒疹はないですね。

ケトン食実践者で小児てんかん患者なら、β-ヒドロキシ酪酸(BOH)濃度が
4000μmol/L以上が発作予防に望ましい(43ページ)ので、
血中総ケトン体はさらに高値で4600μmol/L以上なります。
それでも色素性痒疹は副作用として記載がありません。



さらに、宗田哲男先生のご研究(☆)により
1)胎盤のβ-ヒドロキシ酪酸(BOH)値は基準値の20~30倍、
平均2235.0μmol/L(60検体)
2)臍帯のβ-ヒドロキシ酪酸(BOH)値は基準値の数倍~10倍、
 平均779.2μmol/L(60検体)
3)新生児のβ-ヒドロキシ酪酸(BOH)値は、基準値の3倍~数倍、
  平均240.4μmol/L(312例、生後4日)  

ということがわかりました。
β-ヒドロキシ酪酸(BOH)の基準値は85 μmol/L以下です。
胎盤と臍帯と新生児では、ケトン体は高値が当たり前で安全であるということです。
そして、これだけβ-ヒドロキシ酪酸(BOH)が高値でも、
新生児に色素性痒疹は出現しません。

そうすると、中嶋先生のご指摘通り
A)低カロリー食 → 色素性痒疹出現
B)血中ケトン体高値 → 色素性痒疹出現なし


A)パターンで、色素性痒疹が出現しますが、
 ケトン体高値は原因ではなく低カロリーのための結果である可能性が高いです。
 すなわち、ケトン体は色素性痒疹に関しても無実であり、本来安全性は極めて高い物質と考えられます。

B)パターンで、血中ケトン体が、ケトン食レベルで4000μmol/Lを超える高値でも、 充分量のエネルギーを摂取していれば、色素性痒疹は出現しません。
 つまり、ケトン体高値単独で色素性痒疹は出現しないということです。


2017/10/23(月)の記事で、
低カロリー食で血中ケトン体が高値となり色素性痒疹発症
と述べましたが、正確には、単純に
「低カロリー食で色素性痒疹発症」
です。
ケトン体高値は、あくまでも低カロリー食の結果に過ぎません。
ケトン体高値と色素性痒疹は無関係です。
従って勿論、糖質制限食と、色素性痒疹は無関係です。



結論です。
今までの常識とは異なり、
色素性痒疹の本質は低カロリー過ぎる状態に対する人体の反応であり、
血中ケトン体高値は、無関係と考えられます。




(☆)
Ketone body elevation in placenta, umbilical cord,newborn and mother in normal delivery  Glycative Stress Research 2016; 3 (3): 133-140
Tetsuo Muneta 1), Eri Kawaguchi 1), Yasushi Nagai 2), Momoyo Matsumoto 2), Koji Ebe 3),Hiroko Watanabe 4), Hiroshi Bando 5)


江部康二
コメント
風邪を引いた時の血糖値
初めてコメントいたします。私は妊娠38週で妊娠糖尿病と診断された35歳のママです。いつもブログを見て勉強させていただいております。
私は元々インスリン分泌が低かったようで(興味本位で、簡易測定器で測った食後血糖値の下がりがいつもあんまりよくなかった)気になっていたので、75gOGTTを受けたところ、GDMとわかりました。

食事療法で空腹時 80台、食後2時間血も120以下で無事出産できました。
昨日乳腺炎になってしまい、本日朝ごはんは普通に食べて(授乳中は糖質制限食をかなり緩めにしているので、カボチャやさつまいもを食べました)食後90分くらいに血糖測定してみると、なんと177とかなりの高値を出してしまいました。
風邪だと血糖値が上がると聞いていますが、健常人は風邪を引いてもこんなに上がらないのでしょうか。妊娠糖尿病になると、出産後も糖尿病になる可能性が高いと聞いているので、今後も食事・運動療法を続けていこうと思っていますが、まだまだ産褥期で思うように体も動かせない、だけど授乳のために厳格な糖質制限もできなくて、不安に思っています。
ご教授いただけると幸いです。よろしくお願いします。
2017/10/24(Tue) 12:39 | URL | 妊娠糖尿病ママ | 【編集
低カロリー+急激な代謝変化
江部先生

いつも貴重な情報を御提供頂き有難うございます。

色素性痒疹については私の拙ブログでも過去に考察した事がございます(http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-508.html)。

確かに調べる限り色素性痒疹が起こる方は総じて極端なダイエットを行っている方が多いようです。今回の論文でもその事が裏付けられているように思います。

一方で私の個人的な経験ですが、私は8日間の断食実験を行った事があり、その際に到達した3-ヒドロキシ酪酸の最高値は8156μmol/L、総ケトン体の最高値は10142μmol/Lでした。
その際色素性痒疹の症状は全く出現しませんでしたので、これを考えてもケトーシス自体が色素性痒疹の原因ではないという事は言えると思います。

しかしその一方で断食は究極の低カロリー食です。私は言ってみればこれ以上ない低カロリーの状態で8日間の時間を過ごしたわけで、それでも色素性痒疹は一切出現していません。

あくまでも私の仮説ですが、普段から糖代謝をメインに使っている人がいきなり糖質制限や断食のようにケトン体代謝を使う必要がある代謝変化を起こした場合に、ケトン体代謝が十分に利用できないために起こるトラブルの一つが色素性痒疹なのではないかと思われるのです。

それに低カロリーが色素性痒疹の原因と仮定したら、色素性痒疹の治療にミノマイシンなどのテトラサイクリン系の抗生物質が奏功する理由も説明できなくなります。抗生物質は決してカロリーを与えているわけではないからです。
私はこのような静菌作用を持つ抗生物質が色素性痒疹に効く理由は、一部酪酸菌などケトン体を産生する腸内細菌の活動を抑え、結果的に過剰なケトン体産生を抑えてケトン体を使い慣れていない身体にケトン体を使いやすくしているためではないかと予想しています。

逆に言えば普段から糖質制限をしていて、ケトン体代謝に適応している私のような糖質制限実践者であれば断食ほどの低カロリーの状態におかれても色素性痒疹は起こらないということです。

同じ低カロリー状態でも身体の代謝環境によって起こる現象は異なってくると私は考える次第です(http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-589.html)。
2017/10/24(Tue) 13:06 | URL | たがしゅう | 【編集
研究会情報
第2回糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ研究会

http://ccs.ncgm.go.jp/news/2017/20170621173330.html

シンポジウム2

糖尿病と糖質・炭水化物の科学
座長:二宮 利治(九州大学大学院)、後藤 温(国立がん研究センター)

J-EDIT研究における栄養素と認知機能の関連
荒木 厚(東京都健康長寿医療センター 糖尿病・代謝・内分泌内科)

JPHC Studyにおける炭水化物摂取と糖尿病発症
溝上 哲也(国立国際医療研究センター 疫学・予防研究部)

JDC Studyにおける炭水化物摂取と糖尿病合併症の関連
曽根 博仁(新潟大学 医学部 血液・内分泌・代謝内科学分野)

2型糖尿病治療における130g糖質調整食-介入研究の結果から
佐藤 淳子(順天堂大学静岡病院 糖尿病内分泌内科)

糖質・炭水化物のメタアナリシス-減量・糖尿病発症・死亡について
能登 洋(聖路加国際病院 内分泌代謝科)
2017/10/24(Tue) 16:00 | URL | 中嶋一雄 | 【編集
Re: 風邪を引いた時の血糖値
妊娠糖尿病ママ さん

将来の糖尿病発症予防なら、緩やかな糖質制限食で充分と思います。
具体的には、1回の食事の糖質量が40gくらいです。
2017/10/24(Tue) 16:04 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 低カロリー+急激な代謝変化
たがしゅう 先生

コメントありがとうございます。
先生のご意見に私も賛成です。

私も34歳以来、10回以上断食をしています。
その過程でいろいろありましたが、「断食疹」と呼ばれる皮疹がでる人が時々いました。
甲田光雄先生など先人にお伺いしても、断食疹は時々経験するということでした。

「普段から糖質制限をしていて、ケトン体代謝に適応している私のような糖質制限実践者であれば断食ほどの低カロリーの状態におかれても色素性痒疹は起こらないということです。」
その通りと思います。
そうでない人に時々、断食疹がでるわけです。

そして、低カロリー食に対しても同様のことが言えると思います。
低カロリー食を実践しても「色素性痒疹」がでない人も多いです。

ご指摘通り、私も低カロリーが色素性痒疹の原因ではないと思います。
低カロリー食をきっかけに、何らかの人体の反応を引きおこして、結果として色素性痒疹を発症と思います。

「それに低カロリーが色素性痒疹の原因と仮定したら、色素性痒疹の治療にミノマイシンなどのテトラサイクリン系の抗生物質が奏功する理由も説明できなくなります。抗生物質は決してカロリーを与えているわけではないからです。
私はこのような静菌作用を持つ抗生物質が色素性痒疹に効く理由は、一部酪酸菌などケトン体を産生する腸内細菌の活動を抑え、結果的に過剰なケトン体産生を抑えてケトン体を使い慣れていない身体にケトン体を使いやすくしているためではないかと予想しています。」

興味深い仮説と思います。
しかし私は、ケトン体は人体で最も安全な物質の一つであり、害毒は基本的にないと思います。
例えば糖尿病ケトアシドーシスも「インスリン作用の欠落」がないと起こりえない病気です。
糖尿病性ケトアシドーシスも、ケトン体は代謝失調の結果であり原因ではありません。
インスリン作用さえあれば、ケトン体は4000~8000以上でも、人体にとって極めて安全な物質と考えています。

色素性痒疹においても、ケトン体自体は安全な物質なのですが、
低カロリー食をきっかけに人体全体に様々な反応が生じ、その一つが色素性痒疹と思います。
2017/10/24(Tue) 16:23 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 研究会情報
中嶋一雄 先生

情報をありがとうございます。
2017/10/24(Tue) 16:41 | URL | ドクター江部 | 【編集
朝、針では122、CGMでは144と違いました。今日1日、CGMでは高めの数値が出ています。このままで良いのでしようか
2017/10/24(Tue) 18:30 | URL | 関口瑞穂 | 【編集
Re: タイトルなし
関口瑞穂 様

CGMが安定するまで、1日くらいかかることがあるようです。
このまま経過をみて良いと思います。
2017/10/24(Tue) 19:48 | URL | ドクター江部 | 【編集
最近の論文
杏林医学会雑誌

日本人のための糖尿病食事療法を考える

石田 均

杏林大学医学部 第三内科

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyorinmed/47/4/47_163/_pdf

……味わって読みましょう
2017/10/24(Tue) 20:10 | URL | 中嶋一雄 | 【編集
産業医が語った癌の原因
江部先生こんばんは

本日、勤め先の産業医の講話がありました。
話題は【癌】で、癌になる1番の原因は、
タバコと長生きであると1時間聞かされました。

喫煙者が減り続けているよ!
他に原因があるのでは!
と、考えつつ聞いていました。

( ゚Д゚)糖質だぁぁ!
2017/10/24(Tue) 23:29 | URL | イナガキ | 【編集
Re: 最近の論文
中嶋一雄 先生

情報をありがとうございます。
石田均氏、信頼度の低い論文を引用して、相変わらずですね。
2017/10/25(Wed) 07:16 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 産業医が語った癌の原因
イナガキ さん

同感です。

糖質摂取による高血糖と高インスリン血症は発がんリスクとなります。
2017/10/26(Thu) 18:51 | URL | ドクター江部 | 【編集
少し古い記事ですが、中川淳一郎氏の体験談を見つけました。

毎日コンビニ食、ファストフードを食べ続けた結果、私の身体は……
https://www.moneypost.jp/148852

色素性痒疹を発症していたのではないでしょうか?このとき受信した医師が「栄養不良だ」と叫んだとのことですので、それを認識している先生もいるのですね。
2017/11/13(Mon) 15:48 | URL | かんな | 【編集
Re: タイトルなし
かんな  さん


情報をありがとうございます。
2017/11/13(Mon) 22:17 | URL | ドクター江部 | 【編集
色素性痒疹とタンパク質量の関係
こんにちは

僕は発症した場合タンパク質を多めに摂取するとよくなります。
発症した日にいつもより100g多めに
皮なしモモ肉を食べただけで直った事もあります。
いろいろ試して、ミノマイシンに頼らない方法を模索した結果こうなりました。
ですが僕にはなぜなのか全くわかりません。

色素性痒疹は摂取しているタンパク質量に関係しますか?
2018/08/06(Mon) 22:19 | URL |  | 【編集
Re: 色素性痒疹とタンパク質量の関係
望 さん

色素性痒疹に関して文献を調べたところ、
『低カロリー食により発症する』ことを確認できました。

私が2005年に「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」を上梓しましたが、
それ以前から色素性痒疹は結構発症報告があります。
ほとんどが、低カロリーダイエットが原因です。


2017年10月23日 (月)の本ブログ記事
色素性痒疹と極端な低カロリー食ダイエット。糖質制限食は無関係。
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-4366.html


をご参照いただけば幸いです。




2018/08/07(Tue) 14:34 | URL | ドクター江部 | 【編集
色素性痒疹とタンパク質量の関係
カロリーを増やしても治らない事があるのに、
なぜ、タンパク質を増やしただけで、
症状がおさまっていくのかが疑問です。

数十回試したわけではないですが、発症した時のカロリーのまま治療が可能でした。
具体的には僕の場合ですが、おおよそ除脂肪体重×2.2gから×2.5g程に増やし、
脂質はそれに合わせて下げていき、発症時と同じカロリーになるように調整します。
これでもだいたいおさまっていきます。
僕は少しウエイトトレーニングをするので、タンパク質が多めかもしれません。

ちなみにご指定はブログ記事は読んだ事があります。
とてもお世話になり感謝してます。


2018/08/10(Fri) 13:41 | URL |  | 【編集
Re: 色素性痒疹とタンパク質量の関係

望 さん

たがしゅう先生のブログ記事も
ご参照頂けば幸いです。

たがしゅう先生の仮説
『ミノマイシンが効くことから考えても腸内細菌との関わりがあるように
私は考えています。腸内細菌の過活動と消化管の吸収障害が背景にあり、
一過性の脂質代謝利用障害を起こし
排泄器官としての皮膚の役割が十分に果たせなくなったことが
原因ではないかというのはあくまでも私の仮説です
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-508.html)』
2018/08/10(Fri) 17:40 | URL | ドクター江部 | 【編集
色素性痒疹とタンパク質量の関係
つまりタンパク質を増やしたからではなく脂質を減らして、
きちんとカロリー摂取したから良くなったのでしょうかね?

PFCバランスで言えば、
(P:3 F:6 C:1)で発症するので、
(P:4 F:5 C:1)で調整すると良くなります。
なので合点がいきます。

僕の中ではこれをゆるい糖質制限と扱っており、
好んでいなかったのですが、体質的な問題なようなので、
このままゆるい糖質制限を続けていくことにします。

親切に回答してくださってありがとうございました!

2018/08/11(Sat) 00:14 | URL |  | 【編集
Re: 色素性痒疹とタンパク質量の関係
望 さん

貴重な体験報告をありがとうございます。

(P:3 F:6 C:1)で発症するので、
(P:4 F:5 C:1)で調整すると良くなります。


「P:3 F:6 C:1」
「P:4 F:5 C:1」・・・こちらは、糖質摂取比率35.7%くらいの緩い糖質制限ですね。
            脂質を増やしてカロリーは前者より9%くらい多いですが、それで違うのでしょうかね。
2018/08/11(Sat) 19:34 | URL | ドクター江部 | 【編集
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