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NEJM誌、 Sacksらの「カロリー神話肯定論文」には大きな齟齬あり。
【15/01/02 精神科医師A

栄養と料理2014年11月号
栄養と料理2014年11月号の記事より
www.eiyo21.com/eiyo/detail00092.shtml#s003

◇佐々木敏
『糖質制限ダイエットで本当にやせるかを考察せよ』
P85「ちなみに、同じエネルギー(カロリ―)量であれば、脂質(油や脂)が特に皮下脂肪や内臓脂肪に変わりやすいということもありません」

* *

佐々木敏氏は、栄養と料理2014年11月号で下記の論文を引用し糖質制限食を批判しています

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0804748#t=abstract

一方、渡邊 昌氏もMTProでSacks(2009)を引用している

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1410/1410082.html

山田悟氏も日本医師会雑誌2014年4月号でSacks(2009)を引用してこう述べている

http://www.wound-treatment.jp/new-data/2015-0101/1.pdf

「肥満(症)は基本的に摂取エネルギーが消費エネルギーに対して相対的に過剰になっていることによって生じるものと考えられる。よって、その食事療法はエネルギー制限が原則である」


江部Drとしても、Sacks(2009)の論文に対し見解を出しては?】



こんにちは。

NEJM誌2009年2月26日号に、米国Harvard公衆衛生大学院のFrank M. Sacksらの

「ダイエットの種類は減量の成否に影響しない。」

「3大栄養素の摂取割合よりも総熱量の制限が重要である。」

というカロリー神話肯定論文が掲載されました。(*)

精神科医師Aさんから、Frank M. Sacksらの論文について、コメント・アドバイスをいただきした。

佐々木敏氏、渡邊 昌氏、山田悟氏と錚々たるメンバーが引用して、それぞれ論を展開しています。

日本を代表する栄養学者の佐々木敏氏はSacksらの論文を引用して、栄養と料理2014年11月号、82ページ、83ページで

「総エネルギー摂取量が同じならば、どの栄養素からエネルギー(カロリー)をとろうと体重変化にほとんど違いはない」

と結論しています。

渡邊 昌氏、山田悟氏も同様の立場ですね。

しかしこのSacksらの研究論文、なぜ査読を通過できたのか分からないくらいの、お粗末な内容です。

優秀な諸先生方が何故、そこを見逃してしまわれたのか、不思議です。

まず出発点で、

糖質摂取の割合を、「65%、55%、45%、35%」という4つのグループに分けて、1日 あたり750kcalの エネルギーを当初のエネルギー摂取量から減らしたので、4グループとも一日約1600kcal前後の同一カロリーを摂取することとなりました。

ところで、アメリカの糖尿病学会が糖質制限食として認めているのは、「1日糖質量130g以下」です。

しかし、この研究の一番糖質摂取比率が低くて低糖質食とされたグループの糖質摂取量は、出発点の35%でも1日糖質量が「140g」です。

従って、定義的には、この研究、そもそも糖質制限食の研究ではありません。

つまり、この研究で比較されているグループは、いずれも糖質制限食ではないのです。

しかも、2年経過した時点で、高糖質グループの摂取割合は65%から53.4%に減少し、低糖質グループの摂取割合は35%から42.9%に増加していました。

当初、糖質摂取比率で30%の差があるデザインだったのに、最終的には10.5%の差しかなく、これでは有意差が出ないのも当然です。

結局この研究は、糖質摂取比率53.4%のグループと42.9%のグループを2年間比較したら、体重減少効果は同一であったということです。

出発点のように、糖質摂取比率65%のグループと35%のグループを比較したら、糖質制限食の方が体重減少効果が有意に大きかった可能性が高いのです。

まして、アメリカ糖尿病学会が糖質制限食として認めている「1日糖質量130g以下」のグループを作って比較研究していれば、体重減少効果は顕著にでたと思われます。

なお、佐々木敏先生が、2014年11月号栄養と料理、83ページに載せておられる表の

D群(低糖質群):6ヶ月後と2年後の糖質と脂質の比率が入れ替わっています。

すなわち正しくは、

6ヶ月後糖質43%、脂質34% 
2年後糖質43%、脂質35%

なのに、栄養と料理2014年11月号では

6ヶ月後糖質34%、脂質43% 
2年後糖質35%、脂質43%

と逆になっています。

何故このような間違いを佐々木敏先生が犯されたのか?
不思議です。


結論です。

NEJM誌、 Sacksらの「カロリー神話肯定論文」には、上述のように大きな齟齬があります。

この論文を根拠に、

「総エネルギー摂取量が同じならば、どの栄養素からエネルギー(カロリー)をとろうと体重変化にほとんど違いはない」

とするのは、暴論と言えます。


江部康二



(*)
Sacks FM, et al:Comparison of Weight-Loss Diets with Different Compositions of Fat, Protein, and Carbohydrates: N Engl J Med Volume 360: 859-873 Feb.26,2009

NEJM誌2009年2月26日号、
米国Harvard公衆衛生大学院のFrank M. Sacks氏らの論文からの抜粋。

811人(51±9歳、男性が36%)の過体重または肥満の成人を4等分し、
無作為に以下の食事療法のいずれかに割り付けた:

エネルギーの摂取比率がそれぞれ
脂質、     たんぱく質、      炭水化物     
20%、     15%、         65%(低脂肪/標準たんぱく食)
20%、      25%、        55%(低脂肪/高たんぱく食)
40%、     15%、         45%(高脂肪/標準たんぱく食)
40%、      25%、         35%(高脂肪/高たんぱく食)

 低脂肪/標準たんぱく食群:
  1636kcal、26.2%、17.6%、57.5%(6カ月時)
  1531kcal、26.5%、19.6%、53.2%(2年時)

 低脂肪/高たんぱく質食群:
  1572kacl、25.9%、21.8%、53.4%(6カ月時)
  1560kcal、28.4%、20.8%、51.3%(2年時)

 高脂肪/標準たんぱく食群: 
  1607kcal、33.9%、18.4%、49.1%(6カ月時)
  1521kcal、33.3%、19.6%、48.6%(2年時)

 高脂肪/高たんぱく食群:
 1624kcal、 34.3%、22.6%、43%(6カ月時)
 1413kcal、 35.1%、21.2%、42.9%(2年時)

 摂取熱量と共に運動量も、4群間に差はなかった。


テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
スーパー以外は無意味?
初めまして。先生の御著書を拝見し糖質制限を心がけている中年肥満男性です。本人の意思が弱いためスーパー制限食は難しいのですが、御著書の勧めに従って朝食と昼食で糖質制限を実行して参りました。
ところで、本投稿で糖質摂取量が35%の食事は糖質制限食でないとのご指摘でいらっしゃいます。とするならば、プチ糖質制限食やスタンダード糖質制限食は実は糖質制限食とはいえず、真に糖質制限食といえるのはスーパー糖質制限食のみという理解でよろしいでしょうか。つまり、御著書で勧めていらっしゃる3つの糖質制限で効果が期待できるのは実はスーパー糖質制限食のみである、ということなのでしょうか。
2015/01/06(Tue) 21:54 | URL | くんぷー | 【編集
Re: スーパー以外は無意味?
くんぷー さん

拙著のご購入、ありがとうございます。

米国糖尿病学会の基準として、「130g/日以内の糖質摂取を、糖質制限食と定義する」ということです。
1800kcal/日として、スタンダード糖質制限食で糖質が121.5g/日です。

プチだと一日の糖質量が130gを超えるので米国の定義では、糖質制限食とは言えませんね。

ともあれ、定義は定義で置いておいて、
糖質が少なければ少ないほど、体重減少効果、血糖改善効果はあります。

しかし、普通に糖質を200~300g/日食べている人に比べたらプチでも有効ですよ。


2015/01/07(Wed) 14:59 | URL | ドクター江部 | 【編集
続けていきます
お忙しい中コメントありがとうございました。
安心いたしました。
少しずつでも糖質制限食を増やしていこうと思います。
益々のご活躍をお祈りいたしております。
2015/01/09(Fri) 18:29 | URL | くんぷー | 【編集
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