2014年08月15日 (金)
こんにちは。
やせたければ脂肪をたくさんとりなさい
ダイエットにまつわる20の落とし穴 朝日新聞出版
ジョン・ブリファ (著), 江部康二 (監修), 夏井 睦 (監修), 大田直子 (翻訳)
2014年8月7日発売開始です。
夏井睦先生と私の共同監修で、英国の本の翻訳本です。
私が、まえがきを書いて、夏井先生が、あとがき担当です。
畏友夏井睦先生のあとがき、例によって自由奔放に筆を走らせておられます。
あとがきだけでも読む価値はありますね。
江部康二
☆☆☆
以下は、
『やせたければ脂肪をたくさんとりなさい』
私のまえがきです。
まえがき
本書の著者、ジョン・ブリファ博士はユニバーシティ・カレッジ・ロンドン医学部を卒業した医師です。現在、英国における食事療法・体重管理・健康管理の第一人者であり、本書は8冊目の著書で、ダイエットの本です。
彼自身が当初は従来の常識である「食べる量を減らして運動量を増やす」ことで減量が可能だと信じていました。しかしカロリー制限をして運動をしても、ほぼ全員が減量に失敗する現実をみて、従来の常識に疑問を持ちます。そして、この20年間に発表された科学文献をしっかり読み直すことにより、栄養に関する「社会通念」のほとんどが、間違いで危険であることを認識しました。
例えば「カロリー神話」「脂肪悪玉説」「コレステロール神話」といった旧来の常識が、現在科学的には根底から覆っていることを本書では根拠をもとに明らかにしています。
そこからは人類が誕生してからいちばん長く食べているものを基本にした食事を良しとするという結論に達しますので原始食にたいして肯定的です。しかし米国セレブにおいて一時流行した、酒もコーヒーもお茶も原始時代は摂ってないので禁止というパレオダイエットほど限定的ではありません。原始食の原則は踏まえたうえで応用もOKというスタンスです。そして信頼度の高い科学文献を引用して、ダイエットと健康のための食事の理論を構築し、さらに具体的な食事の実践方法を示したのが本書です。基本は糖質摂取を減らし、脂肪とたんぱく質はしっかり摂取するので、これはまさに糖質制限食の本と言えます。
ブリファ博士のたどったプロセスは、私が高雄病院で「糖質制限食と糖尿病・肥満」に取り組んだ一連の経過と共通しており、おおいに共感を覚えます。農耕が開始される前の狩猟・採集時代の食物こそが、人類の進化のよりどころであり、人類本来の食事、人類の健康食というブリファ博士の認識も私達糖質セイゲニストと同一であり、嬉しい限りです。
本書の特徴は、何と言ってもその豊富な引用文献にあります。1章~21章で合計約280件の科学論文が引用してあり、ブリファ博士自身の考えや提案に根拠を与えています。これらの論文は、拙著やブログで私が引用しているものも多く、日本から英国にエールを送りたい気持ちです。著者も本書は「科学」の内容が多くて読者に要求される知的レベルが高いので、16章からの実用編から読み始めてもよいとしています。しかしその場合も、各章の最後の結論の要約だけはぜひ読んでポイントを理解して欲しいそうです。
巻末の情報源という項も興味深いです。本書を書くにあたりブリファ博士が参考にした医師や科学ライターのブログが掲載されています。英語が得意な人には宝の山かもしれません。私が日本語版(2013年)の書評を書いた「ヒトはなぜ太るのか?」の著者ガリー・トーブス氏もリストに載っています。米国でもトーブス氏のように糖質制限食賛成派が積極的に情報を発信しています。
2013年10月には、米国糖尿病学会が2008年以来5年ぶりに、成人糖尿病患者の食事療法に関する声明を改訂して発表しました。その中で全ての糖尿病患者に適した“one-size-fits-all(唯一無二の)”食事パターンは存在しないと明言し、地中海食など共に、糖質制限食も正式に受容したのは記憶に新しいところです。
スウェーデン社会保険庁も、2005年から糖質制限食の有効性に関して調査を開始して、その結果を得て2008年1月には公的に認めました。現在スウェーデンでは、肥満・糖尿病の食事療法として、程度の差はありますが、23%の人が糖質制限食を実践しています。
英国糖尿病学会においても、2011年食事療法ガイドライン改訂にあたり糖質制限食を選択肢の一つとして認めました。
このように、世界の動向をみると、糖質制限食を認める潮流は明らかです。日本糖尿病学会においても、やっと緩やかな糖質制限食は選択肢の一つとして認める方向に舵をとりつつある段階です。
本書においても、従来の「低脂肪食」に対して、「低炭水化物食」が、ダイエットに関して有効であることを、科学的根拠をもとに示しています。
摂取するエネルギーと消費するエネルギーのバランスにより、体重の増減が決まるというのが従来信じられている「カロリー神話」ですが、これは消費するエネルギーを固定的に考えていることから来る誤解です。摂取するエネルギーと消費するエネルギーは相互に依存しています。摂取カロリーを制限すると代謝が抑制され、消費エネルギーも大幅に減少します。このメカニズムにより、過去にカロリー制限食が減量に失敗し続けた理由を説明しています。つまり、カロリー制限食を続けていても体重減少は止まってしまうし、元のカロリーに戻せばすぐに体重も戻るし、代謝が抑制されたままなら元より太ることになります。
ついで食欲の問題ですが、高タンパク・高脂肪の食事は満足感が高く空腹感の度合いが低く、自発的に食べる量が減るので、摂取カロリーも自然に減るということを論文を引用して検証しています。一方、高炭水化物食は満足度が低いので、結果として食べる量が多く摂取カロリーも多くなるのです。
インスリンとインスリン抵抗性についてもふれています。インスリンが肥満ホルモンであることは間違いありません。そしてインスリン抵抗性が肥満の元凶であることを指摘しています。インスリンを大量に分泌させるのは炭水化物、脂質、蛋白質のうち炭水化物だけです。インスリンを大量に分泌させるような食事(高炭水化物食)がインスリン抵抗性を増大させて肥満の悪循環になるのです。
運動に関しても、研究論文をあげて、有酸素運動が減量に有効という従来の常識を否定しています。しかし有酸素運動の健康への効果に関しては肯定しています。有酸素運動と対極にある抵抗運動(ウェイトリフチィング、腕立て伏せ、腹筋運動など)と高タンパク食をを組み合わせると筋肉量を維持して脂肪の減量ができるという研究も示されています。
本書はダイエットの本(低炭水化物食)ですが、運動など健康によいライフスタイルへのアドバイスもあります。糖質制限食や人間栄養学や健康管理に興味がある人は一読の価値があります。そして従来の医学常識や栄養学の常識を疑い自分の頭で考えることを目指す人には格好の入門書といえます。ぜひご一読を。
やせたければ脂肪をたくさんとりなさい
ダイエットにまつわる20の落とし穴 朝日新聞出版
ジョン・ブリファ (著), 江部康二 (監修), 夏井 睦 (監修), 大田直子 (翻訳)
2014年8月7日発売開始です。
夏井睦先生と私の共同監修で、英国の本の翻訳本です。
私が、まえがきを書いて、夏井先生が、あとがき担当です。
畏友夏井睦先生のあとがき、例によって自由奔放に筆を走らせておられます。
あとがきだけでも読む価値はありますね。
江部康二
☆☆☆
以下は、
『やせたければ脂肪をたくさんとりなさい』
私のまえがきです。
まえがき
本書の著者、ジョン・ブリファ博士はユニバーシティ・カレッジ・ロンドン医学部を卒業した医師です。現在、英国における食事療法・体重管理・健康管理の第一人者であり、本書は8冊目の著書で、ダイエットの本です。
彼自身が当初は従来の常識である「食べる量を減らして運動量を増やす」ことで減量が可能だと信じていました。しかしカロリー制限をして運動をしても、ほぼ全員が減量に失敗する現実をみて、従来の常識に疑問を持ちます。そして、この20年間に発表された科学文献をしっかり読み直すことにより、栄養に関する「社会通念」のほとんどが、間違いで危険であることを認識しました。
例えば「カロリー神話」「脂肪悪玉説」「コレステロール神話」といった旧来の常識が、現在科学的には根底から覆っていることを本書では根拠をもとに明らかにしています。
そこからは人類が誕生してからいちばん長く食べているものを基本にした食事を良しとするという結論に達しますので原始食にたいして肯定的です。しかし米国セレブにおいて一時流行した、酒もコーヒーもお茶も原始時代は摂ってないので禁止というパレオダイエットほど限定的ではありません。原始食の原則は踏まえたうえで応用もOKというスタンスです。そして信頼度の高い科学文献を引用して、ダイエットと健康のための食事の理論を構築し、さらに具体的な食事の実践方法を示したのが本書です。基本は糖質摂取を減らし、脂肪とたんぱく質はしっかり摂取するので、これはまさに糖質制限食の本と言えます。
ブリファ博士のたどったプロセスは、私が高雄病院で「糖質制限食と糖尿病・肥満」に取り組んだ一連の経過と共通しており、おおいに共感を覚えます。農耕が開始される前の狩猟・採集時代の食物こそが、人類の進化のよりどころであり、人類本来の食事、人類の健康食というブリファ博士の認識も私達糖質セイゲニストと同一であり、嬉しい限りです。
本書の特徴は、何と言ってもその豊富な引用文献にあります。1章~21章で合計約280件の科学論文が引用してあり、ブリファ博士自身の考えや提案に根拠を与えています。これらの論文は、拙著やブログで私が引用しているものも多く、日本から英国にエールを送りたい気持ちです。著者も本書は「科学」の内容が多くて読者に要求される知的レベルが高いので、16章からの実用編から読み始めてもよいとしています。しかしその場合も、各章の最後の結論の要約だけはぜひ読んでポイントを理解して欲しいそうです。
巻末の情報源という項も興味深いです。本書を書くにあたりブリファ博士が参考にした医師や科学ライターのブログが掲載されています。英語が得意な人には宝の山かもしれません。私が日本語版(2013年)の書評を書いた「ヒトはなぜ太るのか?」の著者ガリー・トーブス氏もリストに載っています。米国でもトーブス氏のように糖質制限食賛成派が積極的に情報を発信しています。
2013年10月には、米国糖尿病学会が2008年以来5年ぶりに、成人糖尿病患者の食事療法に関する声明を改訂して発表しました。その中で全ての糖尿病患者に適した“one-size-fits-all(唯一無二の)”食事パターンは存在しないと明言し、地中海食など共に、糖質制限食も正式に受容したのは記憶に新しいところです。
スウェーデン社会保険庁も、2005年から糖質制限食の有効性に関して調査を開始して、その結果を得て2008年1月には公的に認めました。現在スウェーデンでは、肥満・糖尿病の食事療法として、程度の差はありますが、23%の人が糖質制限食を実践しています。
英国糖尿病学会においても、2011年食事療法ガイドライン改訂にあたり糖質制限食を選択肢の一つとして認めました。
このように、世界の動向をみると、糖質制限食を認める潮流は明らかです。日本糖尿病学会においても、やっと緩やかな糖質制限食は選択肢の一つとして認める方向に舵をとりつつある段階です。
本書においても、従来の「低脂肪食」に対して、「低炭水化物食」が、ダイエットに関して有効であることを、科学的根拠をもとに示しています。
摂取するエネルギーと消費するエネルギーのバランスにより、体重の増減が決まるというのが従来信じられている「カロリー神話」ですが、これは消費するエネルギーを固定的に考えていることから来る誤解です。摂取するエネルギーと消費するエネルギーは相互に依存しています。摂取カロリーを制限すると代謝が抑制され、消費エネルギーも大幅に減少します。このメカニズムにより、過去にカロリー制限食が減量に失敗し続けた理由を説明しています。つまり、カロリー制限食を続けていても体重減少は止まってしまうし、元のカロリーに戻せばすぐに体重も戻るし、代謝が抑制されたままなら元より太ることになります。
ついで食欲の問題ですが、高タンパク・高脂肪の食事は満足感が高く空腹感の度合いが低く、自発的に食べる量が減るので、摂取カロリーも自然に減るということを論文を引用して検証しています。一方、高炭水化物食は満足度が低いので、結果として食べる量が多く摂取カロリーも多くなるのです。
インスリンとインスリン抵抗性についてもふれています。インスリンが肥満ホルモンであることは間違いありません。そしてインスリン抵抗性が肥満の元凶であることを指摘しています。インスリンを大量に分泌させるのは炭水化物、脂質、蛋白質のうち炭水化物だけです。インスリンを大量に分泌させるような食事(高炭水化物食)がインスリン抵抗性を増大させて肥満の悪循環になるのです。
運動に関しても、研究論文をあげて、有酸素運動が減量に有効という従来の常識を否定しています。しかし有酸素運動の健康への効果に関しては肯定しています。有酸素運動と対極にある抵抗運動(ウェイトリフチィング、腕立て伏せ、腹筋運動など)と高タンパク食をを組み合わせると筋肉量を維持して脂肪の減量ができるという研究も示されています。
本書はダイエットの本(低炭水化物食)ですが、運動など健康によいライフスタイルへのアドバイスもあります。糖質制限食や人間栄養学や健康管理に興味がある人は一読の価値があります。そして従来の医学常識や栄養学の常識を疑い自分の頭で考えることを目指す人には格好の入門書といえます。ぜひご一読を。
有酸素運動はミトコンドリア系のエネルギー生産が関係していて、呼吸で取り入れた酸素を使用しているので、エネルギー効率が抵抗運動(無酸素運動)に比べ、19倍もよい(同じ量の糖質だと19倍のエネルギーを生産できる)ので、健康によかったり、癌の予防にはよいと言われます。抵抗運動(無酸素運動)は解糖系のエネルギー生産が関係していて、エネルギーの生産効率は悪いのですが、エネルギーの生産スピードが約100倍と言われますので糖質の消費は多くなります。ただし解糖系は癌が使用するエネルギー生産システムといわれますので注意が必要です。
分厚いステーキを食べた後でもスイーツは別腹といってデザートを食べれることから考えると、高炭水化物は満足度が低いというより、炭水化物は食欲関係のホルモン(オレキシンかも)を出しやすく習慣化しやすいのではないかと思います。
分厚いステーキを食べた後でもスイーツは別腹といってデザートを食べれることから考えると、高炭水化物は満足度が低いというより、炭水化物は食欲関係のホルモン(オレキシンかも)を出しやすく習慣化しやすいのではないかと思います。
早速購入です、ちなみに昨年ニューヨークでベストセラーになった"WHEAT BELLY"日本語訳版”小麦はたべるな!”日本文芸社も参考にしています。エビデンス的な病気疾患に至るまでの原因物質の作用秩序をもっと知りたいと思っています。どちらかといえば専門分野ですが、興味深々で読みふけっています。
2014/08/16(Sat) 17:16 | URL | とおりすがり | 【編集】
とおりすがり さん
「やせたければ脂肪をたくさんとりなさい」
この本、引用文献が豊富なので、いいですね。
「やせたければ脂肪をたくさんとりなさい」
この本、引用文献が豊富なので、いいですね。
2014/08/17(Sun) 11:51 | URL | ドクター江部 | 【編集】
| ホーム |