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糖質制限下でも食後高血糖継続:通院治療開始すべきか?
【糖質制限下でも食後高血糖継続:通院治療開始すべきか?

いつも ブログ 楽しく拝見させていただいております。産業医として働いております、 38歳の3児の母です。
もともと 第二子妊娠中に妊娠糖尿病を指摘され 、江部先生のブログや著書を読んで、
 食事制限のみでコントロールをしていたのですが、
 第二子の産後も血糖値を確認していたところ、 食後高血糖があることが分かりましたので 、
糖質制限を5年以上継続しています。

その後の健診や第三子妊娠中も、糖質制限を継続していたおかげで血糖値異常を指摘されることはなく、
江部先生には感謝しております。
最近糖質を制限しているにも関わらず、
食後の血糖がなかなか下がらなくなってきたので、相談させてください。

現在 第3子出産後1年半になります。
現在から1年前ぐらいの産後半年のタイミングで、フリースタイル リブレで血糖値の推移を測った際には、
だいたい 一食あたりの糖質が20グラムになると 血糖値が150ぐらいになってしまい 、
ひどい時だと食事中の脂質の量が少ない場合は一時的に180にもなることがあったのですが、
そのため できるだけ 糖質は10g 程度に抑えるようにして、
食後運動できるタイミングで食事をとるなど 工夫していました。

その当時の私の食後血糖値のパターンとしては、立ち上がりが遅く、
じわじわ上がってピークが食後一時間ではなく二時間に近いタイミングで、
食後3時間になるまでには100以下に戻る、反動で85未満の低血糖になることはないが高血糖の時間帯が長い、
ということが多く、インスリンの分泌が遅くかつインスリン抵抗性も高いのだろうなと愚考しておりました。
一年前がこの様な状態です。

それからずっと1食あたりの糖質量か 20g を超えないように、
1日トータル糖質量を50g 以下に抑えるようにしています。

先日1年ぶりにフリースタイルリブレを使って血糖値の動向を確認しました。
すると、血糖値が更に下がりにくくなっておりました。
具体的には、7時に朝食で10グラム程度糖質を摂って、
食後30分〜2時間の間に通勤があるので5000歩程歩いているのですが、
血糖値が食後一時間のタイミングで135まで上がったあと、
午前中ずっと120を下回らないことが多いのです。

忙しいのと血糖値が更に上がるのが怖く、仕事中の昼食はアーモンド20個程度なのですが、
そうすると血糖値は上がらないものの下がらないまま、15時頃にはやっと100くらいになり、
また歩いて通勤して(一日の歩数は12000歩程度です)、

17時頃には90-100くらいのことが多いのですが、
18時に糖質量は多くても15グラムまでに抑えて夕食を食べて、
その後小さい子がいるので19時に入浴し21時に就寝するのですが、
食後の入浴で150程度まで血糖値が上がり、寝る直前まで120あたりと高い状態が続き、
リブレで確認すると0時くらいまで120程度、
朝起きても110の日もあり、暁現象か120程度の日もあり、
夜間就寝時の血糖値が高めになっておりました。

リブレで平均グルコース値を見ると、
一日平均114
0-6時の平均103
6-12時の平均120
12-18時の平均112
18-24時の平均125
となっておりました。

目標血糖値を70-120に設定しているのですが、120より上の時間帯が25%ありました。
一年前より明らかに平均血糖値(100未満)も高いですし、血糖値が下がるまでの所要時間がかなり長くなっています。
ちなみに一年前と現在で体重は47-48キロ程度(身重147センチ)とほぼ変わっておりません。30歳時の41キロまで減量したいと思っていますがなかなか出来ておりませんが、体組成計で測るとほとんどが皮下脂肪で内臓脂肪のレベルはかなり低いようです。遺伝か高校生の時から高脂血症(ldlもhdlも高め、tgは低い)はあり経過観察中、高血圧はありません。睡眠時間は7時間は確保しています。38歳で、三人の子どもがいるため、健康寿命を伸ばしたいです。

江部先生に相談したいのは、今後内科受診して服薬治療すべきかについてです。
今糖負荷試験をすれば間違いなく糖尿病と診断されると思うのですが、
早めに治療開始すべきでしょうか?
それとも、血糖値が高い時間が長いとは言え、120程度ですので経過観察の方が良いでしょうか?
個人的には120程度でも血管の炎症で老化が進みそうで恐怖を感じています。

また、仮に受診をするのであれば、既に食事療法と運動(徒歩通勤+1日20分の筋トレ)はしているので
すぐ内服を検討すると思うのですが、
内服治療をするのであれば、どのタイプの薬が糖質制限食との組み合わせで良いでしょうか?
SGLT2阻害薬が作用機序から向いているのではと思ったのですが第一選択ではないと思います。

正直なところ、育児で慌ただしく定期通院内服は避けたい、
育児が落ち着いて減量すればいつか耐糖能も改善するのかと思っていたのですが、
加齢のせいか同じ生活でも血糖値が下がらないならそろそろ内服すべきかと考えています。

ご多忙な中たいへん恐れ入りますが、
江部先生の率直なご意見を伺えれば幸いです。ご教示いただけるととても嬉しいです、よろしくお願いいたします。】


こんにちは。産業医母さんから
【糖質制限下でも食後高血糖継続:通院治療開始すべきか?】
というコメント、質問を頂きました。
まず、結論を言いますが、
このまま内服薬なしで、スーパー糖質制限食を実践されれば良いです。
とにかく、薬はなしか、少ないほどいいです。
私も、立派な糖尿人ですが、52歳で発病して以降、ずっと内服薬なしです。

【1年前ぐらいの産後半年のタイミングで、フリースタイル リブレで血糖値の推移を測った際には、
だいたい 一食あたりの糖質が20グラムになると 血糖値が150ぐらいになってしまい 、
ひどい時だと食事中の脂質の量が少ない場合は一時的に180にもなることがあったのですが、
そのため できるだけ 糖質は10g 程度に抑えるようにして、
食後運動できるタイミングで食事をとるなど 工夫していました。
その当時の私の食後血糖値のパターンとしては、立ち上がりが遅く、
じわじわ上がってピークが食後一時間ではなく二時間に近いタイミングで、
食後3時間になるまでには100以下に戻る、
反動で85未満の低血糖になることはないが高血糖の時間帯が長い】


国際糖尿病連合によれば、合併症予防のためには、
食後1時間値も2時間値も、160mg/dl未満が目標です。
産業医母さんは、1年前の時点で、この目標をほぼクリアしておられます。

【一年前からずっと1食あたりの糖質量か 20g を超えないように、1日トータル糖質量を50g 以下に抑えるようにしています。】


賢明な判断だと思います。

【先日1年ぶりにフリースタイルリブレを使って血糖値の動向を確認しました。
すると、血糖値が更に下がりにくくなっておりました。
具体的には、7時に朝食で10グラム程度糖質を摂って、食後30分〜2時間の間に通勤があるので5000歩程歩いているのですが、
血糖値が食後一時間のタイミングで135まで上がったあと、午前中ずっと120を下回らないことが多いのです。】


こちらも、国際糖尿病連合の目標、「食後1時間値も2時間値も、160mg/dl未満」を、
充分、満たしておられるので全く問題ないと思います。

【忙しいのと血糖値が更に上がるのが怖く、仕事中の昼食はアーモンド20個程度なのですが、
そうすると血糖値は上がらないものの下がらないまま、15時頃にはやっと100くらいになり、
また歩いて通勤して(一日の歩数は12000歩程度です)、17時頃には90-100くらいのことが多いのです】


食事は、1日2食でも3食でも1食でも良いですので、こちらも問題ないです。
私は、朝は<コーヒー+生クリーム10ml>、
昼は高雄病院のスーパー糖質制限給食、
夕は、内食も外食もしますが、メニューを選んでスーパー糖質制限食は維持しています。

【18時に糖質量は多くても15グラムまでに抑えて夕食を食べて、
その後小さい子がいるので19時に入浴し21時に就寝するのですが、
食後の入浴で150程度まで血糖値が上がり、寝る直前まで120あたりと高い状態が続き、
リブレで確認すると0時くらいまで120程度、朝起きても110の日もあり、
暁現象か120程度の日もあり、夜間就寝時の血糖値が高めになっておりました。】


【リブレで平均グルコース値を見ると、
一日平均114
0-6時の平均103
6-12時の平均120
12-18時の平均112
18-24時の平均125
となっておりました。】


こちらも、素晴らしいデータです。
早朝空腹時血糖値が平均で103mg/dlなら、正常範囲です。
また、食前・食後をふくめて、一日の平均血糖値が114mg/dlというのも素晴しい数値です。

【目標血糖値を70-120に設定しているのですが、120より上の時間帯が25%ありました。
一年前より明らかに平均血糖値(100未満)も高いですし、血糖値が下がるまでの所要時間がかなり長くなっています。】


こちらも、食後1時間・2時間血糖値が160mg/dl未満という目標ををクリアすればよいのです。
120mg/dlというのは、厳し過ぎますし、そこまでストイックにする必要はありません。

【江部先生に相談したいのは、今後内科受診して服薬治療すべきかについてです。
今糖負荷試験をすれば間違いなく糖尿病と診断されると思うのですが、早めに治療開始すべきでしょうか?
それとも、血糖値が高い時間が長いとは言え、120程度ですので経過観察の方が良いでしょうか?
個人的には120程度でも血管の炎症で老化が進みそうで恐怖を感じています。】


勿論、内服薬の必要性はありません。
食後1時間・2時間血糖値160mg/dl未満であれば、合併症のおそれはありません。

【内服治療をするのであれば、どのタイプの薬が糖質制限食との組み合わせで良いでしょうか?
SGLT2阻害薬が作用機序から向いているのではと思ったのですが第一選択ではないと思います。】


産業医母 さんの場合、現時点で内服薬の必要性はありません。
一方、もし将来的に、暁現象がはっきりしてきて、早朝空腹時血糖値が130~140mg/dlを超えてくるようなら、
最初からSGLT2阻害薬を選択して良いと思います。
なお、身長・体重はどの程度でしょう。
厚生労働省は、BMI20以上25未満で、その個人の体調が良いならそれでよしとしています。


江部康二
乳児てんかんとケトン体と母乳。乳糖、グルコース、ガラクソース、ヒトミルクオリゴ糖。
【 23/06/08 田中
どこにコンタクトを取ればよいか分からずでしたので
こちらに書き込みをお許しください。
娘乳児がてんかんで母乳にケトンを出すため母体をケトン食にしている者です。
導入は2週間ほど前からで、
母体は順調にケトンが出ているものの(尿検査)フラフラが改善されず、
力がでません。
かなりカロリーは摂っていると思います。
計算したことがないですが、
朝昼晩女性にしてはかなり多めに、
糖質を抜いて(タンパク質はそれほどこだわって抜いてません)
mctオイルをバシャバシャとかけています。

フラつきをなくさないと、
もう直ぐ来る娘の入院付き添いが私しかできないので
なんとか体力を戻したいと思っています。
この症状は低血糖?血を採れば理由がわかるでしょうか?
ケトンは尿検査のキットで一番色が濃い紫になっています。

また、母乳もリトマス紙で中程度のケトンが検出されましたが、
それを飲ませると娘がケトン食をできているという解釈で良いのでしょうか?
哺乳瓶がだめなのでケトンミルクが飲めず母乳をケトンに改造してみた次第です。】



こんにちは。
田中さんから『乳児てんかんとケトン体と母乳』
についてコメント・質問を頂きました。

田中 さん
ケトン食でケトン体が尿にしっかり陽性なら、
血中ケトン体も高値なのでとても良いです。
血中ケトン体が高値なら、母乳のケトン体も高値となると思います。

【母乳もリトマス紙で中程度のケトンが検出されましたが、
それを飲ませると娘がケトン食をできているという解釈で良いのでしょうか?】


それで良いと思います。

さて、フラフラが改善されないとのことですが、
やはり摂取エネルギー不足が一番可能性があります。

授乳婦で、18-29歳なら、
2050kcalの基本に加えて450kcalが追加必要エネルギーとなり、
合計2500kcal/日が必要です。
まずは、ご自分の摂取エネルギーを計算してみましょう。

また貧血などの可能性もあるので、
血液検査(血糖値、ケトン体値、貧血の検査、肝機能、腎機能、膵機能など)を
調べてみましょう。

次に、母乳(人乳)とその成分について、考察してみます。
それぞれの成分が役割を分担して、
赤ちゃんの身体を守り育てるように精妙な工夫が成されており
おおいに感心します。

日本食品標準成分表2015(七訂)によれば、

人乳は100gで、65kcal、炭水化物が7.2g、
利用可能炭水化物(単糖当量)6.7g、脂質が3.5gくらいです。
糖質が総カロリーの44.9%
脂質が総カロリーの48.46%


です。

日本食品標準成分表には、具体的な記載はありませんが、
ヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、
乳糖および脂肪に次いでヒトの乳の3番目に豊富な固体成分を形成
しています。

さて1デシリットル(dl)は100ml です。
血糖値が100mg/dlくらいと仮定すると
循環血液量4000ml中に、ブドウ糖は合計で4gしかありません。
100g中に100mg(0.1g)のブドウ糖しか含まれていない血液から
母乳(100g中に6.7gの糖質)を作るのですから、
乳房内でかなり濃縮していることとなります。

『おっぱい先生の母乳育児「超」入門』 平田喜代美/著  東洋経済新報社  2010年
  P96~98 「母乳育児で生まれるふたつの『愛情ホルモン』」に、
   「赤ちゃんが唇と舌を使って乳頭に与えた刺激が、お母さんの脊髄を通って脳に伝わると、脳の脳下垂体前葉というところから、母乳をつくる『プロラクチン』という物質が分泌されます。このプロラクチンの作用によって、お母さんの乳房の中の毛細血管にたくさんの血液が流れ、その血液が母乳となって乳房の中に蓄えられます。このとき、約1ミリリットルの母乳をつくるのに、500ミリリットルの血液が乳房を通過するといわれています。」と記載あり。


ということで、1mlの母乳をつくるのに、500mlの血液が必要なのですね。
私も、全く知らなかったので、調べてとても勉強になりました。

上記のように母乳には、糖質もかなり含まれていますが、
それ以上の高脂質食でもありますね。

母乳が高脂質食なので、母乳育児中の乳児の血中ケトン体値は、
成人基準値よりはかなり高値となります。

ヒトが吸収できる単糖には、ブドウ糖、果糖、ガラクトースがあります。

人乳あるいは哺乳類のお乳に、
乳糖が含まれていることの意味は何か考えてみました。

乳糖は「ガラクトース+ブドウ糖」で構成されています。

エネルギー補給だけならブドウ糖だけでもいいようなものなのに、
ガラクトースが必要なのには、理由があるようです。

乳糖が母乳の糖質の 80% 以上で、
全エネルギーの 約38%を占めます。

乳糖以外には微量のグルコース、ガラクトース、
種々のオリゴ糖などを含有しています。
ヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、母乳で三番目に多い成分ですが、
そのほとんどは口腔や上部消化管で分解されずに大腸まで到達し、
ビフィズス菌など善玉腸内細菌の栄養源として利用されます。

善玉のビフィズス菌が栄養源を得れば、
酢酸や酪酸といった短鎖脂肪酸を生成して、大腸粘膜のエネルギー源となり、また腸内を酸性に保つことで、
腸内の悪玉の大腸菌群などが減少することが明らかとなっています。

ガラクトースで構成されるガラクトオリゴ糖も、同様に
糞便中のビフィズス菌数増加や腸内細菌叢の改善と、
これに伴う糞便中の酢酸濃度の上昇により腸内の酸性濃度を維持してくれます。

また、ガラクトースは、急速に発達する乳児の中枢神経系の完成に
重要な役割を果たす
とされています。
そしてガラクトースは自然免疫反応のブレーキ役を担っていますが、
病原体に感染した時には、ガラクトース糖鎖の量が減少して
ブレーキが解除される仕組みになっています。


江部康二



WHOが初の「認知症予防ガイドライン」を発表。2019年。
糖尿病ネットワーク
https://dm-net.co.jp/calendar/2019/029157.php  
糖尿病を治療して認知症を防ぐ 
WHOが初の「認知症予防ガイドライン」を発表
2019年05月29日
カテゴリー:   糖尿病合併症 運動療法 食事療法


こんにちは。
少し前ですが、
糖尿病ネットワークに、
「認知症と認知機能低下のリスクを減らすためのWHOガイドライン」
の記事が掲載されました。

新しいガイドラインによると、
『運動の習慣化、禁煙、アルコール摂取の抑制、健康的な食事、
血圧・コレステロール・血糖値のコントロールにより、
認知症の発症リスクを減らすことができる。
身体にとって良いことは脳にとっても良いことが示されている』

とのことです。

このうち、
『運動の習慣化、禁煙、アルコール摂取の抑制、
血圧・コレステロール・血糖値のコントロール』
に関しては、私も賛成です。

しかしながら、WHOの言う以下の青字部分の健康的な食事に関しては、
私には別の意見があります。

【栄養バランスの良い健康的な食事はすべての成人に勧められる
野菜や果物、雑穀や玄米などの全粒穀類、
マメ類、ナッツ類を十分に食べ、
野菜と果物は1日に400g以上を食べることが推奨される。
1日に2,000kcalを摂取している人では、
吸収の早い単純糖質の摂取を5%未満に、
脂肪の摂取を30%未満に抑える。
脂肪の多い牛や豚などの動物性食品を抑え、
食塩の摂取量を1日5g未満にするのが理想的。】



葉野菜など糖質の少ないものはOKとして、
根菜は糖質が多いので少量にとどめるのがよいです。

果物は、いつも述べているように、AGEsにブドウ糖の数十倍なりやすい果糖が多いし、
ブドウ糖やショ糖もあるので、少量にします。

玄米も雑穀もデンプンが多いので糖質制限食的にはNGです。

豆類は大豆製品(納豆、豆腐、揚げなど)以外は糖質が多いのでNGです。

ナッツ類は、糖質含有量の少ないものを適量ならOK。
クルミやアーモンドが糖質含有量が少ないので推奨です。

葉野菜やブロッコリー、ゴーヤ、カリフラワーなど糖質が少ないものはOK。
果物は、少量とします。

単純糖質(砂糖やブドウ糖や果糖など)は、勿論、なしです。

脂肪は、50~60%摂取しても糖質制限的にはOKです。

牛や豚などの動物性食品もしっかり食べてOKです。

食塩は、今まで通りの摂取でOKです。
糖質セイゲニストにおいては、インスリン追加分泌が最小限なので、
体内の塩分と水分が排泄される方向なので、OKなのです。


日本人における認知症の研究としては有名な『久山町研究』があります。

<久山町研究>
山町では1985年から2012年まで5回にわたり65歳以上の全住民を対象にした認知症に関する調査を実施。
過去5回で高齢者認知症の有病率が6.7%から17.9%まで急増。
認知症患者の6割を占めるアルツハイマー型に限れば、約9倍に増えていた。
「米の摂取量を減らして、大豆、緑黄色野菜、淡色野菜、海藻類、牛乳・乳製品を多く摂るというパターンで
認知症のリスクが下がる。」

  第22回日本疫学会学術総会、2012年1月26日(木)〜28日(土)で
  九州大学・小澤 未央 氏が報告。
  Am J Clin Nutr. 2013 May;97(5):1076-82. 論文掲載。


久山町研究における認知症予防の食事パターンに、魚と肉と卵を加えたら、何とそのまま『糖質制限食』です。
この研究結果を考慮すれば、米を含めて穀物やデンプンを制限する糖質制限食で認知症予防が期待できます。


江部康二



☆☆☆
以下の青字の記載は、糖尿病ネットワーク、2019年05月29日の記事から
一部、抜粋です。

糖尿病ネットワーク
https://dm-net.co.jp/calendar/2019/029157.php  
糖尿病を治療して認知症を防ぐ 
WHOが初の「認知症予防ガイドライン」を発表
2019年05月29日
カテゴリー:   糖尿病合併症 運動療法 食事療法




 世界保健機関(WHO)は認知症と認知機能を予防するための具体的な介入方法をまとめた初のガイドラインの公開を開始した。
 認知症リスクは生活習慣改善により減らせるとして、WHOは各国に対応を求めている。
認知症は30年間で3倍に増加
 世界保健機関(WHO)は認知症と認知機能を予防するための具体的な介入方法をまとめた初のガイドラインの公開を開始した。
 新しいガイドラインによると、運動の習慣化、禁煙、アルコール摂取の抑制、健康的な食事、血圧・コレステロール・血糖値のコントロールにより、認知症の発症リスクを減らすことができる。身体にとって良いことは脳にとっても良いことが示されている。        
                       
 「今後30年間で、世界の認知症の有病者数は3倍に増加すると予測されています。認知症のリスクを減らすために、できることを今すぐ実行すべきです」と、WHO局長のテドロス アダノム氏は言う。

 認知症は、アルツハイマー病や脳卒中など、脳に影響を与えるさまざまな病気や傷害から生じ、記憶、思考、行動、理解、計算、学習能力、言語活動、判断に影響を与える。
 認知症は、世界中で5,000万人が罹患しており、毎年約1,000万例が新たに発症している。認知症を発症し、脳がダメージを受けてしまうと、元の状態に戻すのは多くの場合で困難だ。
 患者だけでなく社会が負う経済的負担も大きく、認知症による社会的費用の損失は2030年までに年間220兆円に膨れ上がると予想されている。公衆衛生上の問題として急速に拡大している。



食事と運動を改善すれば認知症リスクは減らせる
 WHOが公開している
「認知症と認知機能低下のリスクを減らすためのWHOガイドライン」
の主な内容は以下の通り――。

運動・身体活動には認知機能低下を予防する効果がある


栄養バランスの良い健康的な食事はすべての成人に勧められる
野菜や果物、雑穀や玄米などの全粒穀類、マメ類、ナッツ類を十分に食べ、野菜と果物は1日に400g以上を食べることが推奨される。
1日に2,000kcalを摂取している人では、吸収の早い単純糖質の摂取を5%未満に、脂肪の摂取を30%未満に抑える。脂肪の多い牛や豚などの動物性食品を抑え、食塩の摂取量を1日5g未満にするのが理想的。


肥満や過体重のある人では、介入して適正な体重にコントロールするで、
認知症のリスクを低下できる可能性がある


高血圧のある人は、WHOのガイドラインに従い適切な治療を受けるべき


糖尿病のある人は、適切な治療を受け生活スタイルを改善するべき


喫煙は身体の健康を害するだけでなく、認知症と認知機能低下のリスクにもなる。たばこを吸う人は禁煙が勧められる


ビタミンB、E、多価不飽和脂肪酸、マルチビタミンのサプリメントは、認知症予防の観点からは推奨されない


過度のアルコール摂取を習慣としている人には、認知症予防の観点から、飲酒量を減らすか断酒が勧められる


社会的な交流と支援は人生を通じて健康や幸福に強く関連している。生活において社会的な関わりは必要だ
 

認知症による社会的・経済的な損失は大きく、治療ケアの不足は世界中で課題になっている。一方で、認知症の危険因子を減らすために取り組めることは多い。WHOは各国に認知症対策の政策を立ち上げることを求めている。
 ガイドラインは、医療従事者が認知症や認知機能低下を予防するため必要なことを患者にアドバイスするときの根拠となる。それはまた、政府や政策立案者、計画当局が健康的な生活スタイルを奨励するプログラムを設計する際にも参考になる。

Adopting a healthy lifestyle helps reduce the risk of dementia(世界保健機関 2019年5月14日)Adopting a healthy lifestyle helps reduce the risk of dementia(世界保健機関 2019年5月14日)
Risk reduction of cognitive decline and dementia:WHO Guidelines(世界保健機関)Risk reduction of cognitive decline and dementia:WHO Guidelines(世界保健機関)
Dementia:Key facts






長寿率。超高齢化率。山梨県の棡原村。沖縄県の大宜味村。
こんにちは。
今回は、いわゆる長寿村について考察してみます。

まずは、以前は長寿村の代表と言われた棡原村(ゆずりはらむら)について検討してみます。
棡原村はかつて山梨県北都留郡にあった村で今は廃止となっています。
そして、現在では、単なる過疎の村であって、長寿村ではなかったことが明らかとなっています。
以下は、長寿率と超高齢化率の定義です。

<長寿率と超高齢化率>
☆長寿率:65歳以上人口/全年齢人口(%)
☆超高齢化率:90歳以上人口/65歳以上人口(%)



長寿指標   全国(75) 秋田県(75) 沖縄県(75) 棡原村(77)
超高齢化率   0.92     0.55     2.46    0.90
長寿率    4.86    5.26       7.25   9.36
出典:松崎俊久・柴田博 老人科診療 1981:2:341


棡原村は、以前の長寿率でみると、9.36で全国平均の倍近くあって、
一見長寿村のように見えますが、
超高齢化率は0.90であって、全国平均レベルに過ぎません。
この現象は、若者が都会に出て行った結果過疎化してしまった村で、
高齢者比率が結果として多くなったということを意味していて、
本当の長寿村ではなかったということを示しています。

これに対して沖縄は、超高齢化率が2.46で全国平均の2.67倍であり、
本当の長寿であることを示しています。
「沖縄の長寿のもっとも大きな要因は、
日本全体がまだ肉不足にあえいでいた頃から
肉をよく食べ、また脂肪摂取量が
全国の平均を1日5gくらい上回っていたことである。」

「また冷蔵庫の普及の遅れた沖縄は、
腐敗を防ぐためもあって油をよく使っていましたが
その分、食塩摂取量は全国一少なかったのです。」

と柴田博氏は、著書で指摘しています。

結局、沖縄の食文化は、長期間琉球王国として独立していて、
日本の他の地域とは大きく異なっていたということが重要です。
日本では仏教の伝来と普及により675年、天武天皇(飛鳥時代)が最初の食肉禁止令を発布しました。
この時禁止されたのは、牛・馬・犬・鶏の家畜と、猿の肉です。
しかし、なぜか当時最も食された鹿や猪は禁止されませんでした。
ともあれ、沖縄では仏教はほとんど普及しなかったため、
肉食タブーという文化がそもそも存在していなかったので
肉食文化が発達し、豚や山羊を常食していました。

この肉食文化や油の積極的摂取が、
当時の沖縄の長寿におおいに貢献したと考えられ、
糖質制限食の立場からも、おおいに納得がいきます。


☆☆☆
参考:長寿の嘘 柴田博著 2018年9月 株式会社ブックマン社



江部康二
糖尿病早期発見のために 。糖尿病の診断。境界型の分類。
こんにちは。
今回はブログ読者の皆さんに、
糖尿病を早期発見するための方法をお知らせしたいと思います。

糖尿病の発見は、早ければ早いほどいいです。
境界型の段階で見つかれば、さらにいいです。
今回は、早期発見のノウハウを説明したいと思います。


<糖代謝異常の判定基準(日本糖尿病学会)>
A) 糖尿病型
①早朝空腹時血糖値が126mg/dl以上
②75gOGTTで120分後血糖値が200mg/dl以上
③随時血糖値200mg/dl以上
④HbA1c≧6.5%
①~④のいずれかが確認された場合は「糖尿病型」と判定する。

B) 正常型
⑤早朝空腹時血糖値が110mg/dl未満
⑥75gOGTTで120分後血糖値が140mg/dl未満
⑤および⑥の血糖値が確認された場合は「正常型」と判定する。

C) 境界型
正常型にも糖尿病型にも属さない場合は「境界型」と判定する。


<75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)>
*朝まで、10時間以上の絶食のあと検査を実施する。
*検査終了までは、運動・喫煙は控える。
*負荷試験の前3日間は、150g/日以上の糖質摂取を、日本糖尿病学会は推奨。
*糖尿病と診断がついている場合は、原則として実施しない。


<糖尿病の診断>
1)  異なる日に①②③を、再確認できたら糖尿病と診断。

2) 「①+④」「②+④」「③+④」が同時に確認できたらは糖尿病と診断。

3)  ④単独の場合、再検査で血糖値が糖尿病型なら、糖尿病と診断。

4)  血糖値が糖尿病型で糖尿病の典型的症状があるか糖尿病網膜症があれば糖尿病と診断。

* 糖尿病の診断には血糖検査は必須であり、HbA1cだけでは診断できない。


< 境界型の分類>
境界型にはWHO分類のIGT、IFG、IFG/IGTがある。

・IFG(Impaired fasting glycaemia): 空腹時血糖異常
・IGT(Impaired Glucose Tolerance): 耐糖能異常

a) 2時間値が140-199mg/dlとなる耐糖能異常であるIGT (Impaired Glucose Tolerance)
IGT単独なら早朝空腹時血糖値は110mg/dl未満で正常である。

b) 空腹時血糖値が110-125mg/dlとなるIFG (Impaired fasting glycaemia)
IFG単独なら75gOGTTにて2時間値は140mg/dl未満で正常である。

c) 両者の合併であるIFG/IGTの3つのパターンがある。


< 糖尿病発症に到る流れ>
Ⅰ) IGT→糖尿病(食後血糖値200mg/dl以上または75gOGTT2時間値200mg/dl以上) 
このパターンの場合、既に糖尿病を発症している段階でも
早朝空腹時血糖値は正常で健診で見逃されるので、注意が必要。

Ⅱ) IGT→IFG/IGT→糖尿病(上記200mg/dl以上または空腹時血糖値126mg/dl以上)

このパターンは、IFG/IGTの段階で、通常の健診でもチェックできる。 

Ⅲ) IFG→IFG/IGT→糖尿病  

通常の健診でもチェックできる。パターンとしては少ない。


日本人では、IGTや200mg/dl以上の食後高血糖が、数年から10年続いて、
初めて早朝空腹時血糖値が110mg/dlを超えることが、最も多いとされています。

つまりⅠ)Ⅱ)のパターンが多くて、Ⅲ)のパターンは少ないのですね。

従いまして、一般的な健康診断の早朝空腹時血糖値で、
糖尿病の早期診断をするのは、おおいに無理があります。

そもそも日本人ではIFG単独の例は、かなり少ないと考えられます。

Ⅰ)Ⅱ)Ⅲ)どのパターンでも、

最終的には、IGTを経て糖尿病型になると考えられます。
IFGからいきなり糖尿病型になるというのは、少ないと思います。

従って、なんとかIGTの段階(糖尿病発症前)でチェックできれば、
治療的には大変役立ちます。

<早期発見には>
そのためには、75g経口ブドウ糖負荷試験が一番確実です。

しかし、かなり面倒で手間暇も費用もかかりますから、
デンプン(糖質)一人前を食べ始めて1時間後の血糖値、
あるいは尿糖を調べれば簡便です。
尿糖が陽性ということは、180mg/dlを超える血糖値があった可能性が高いです。


1時間値が180mg/dlを超えていると、2時間値が140mg/dl未満で正常でも、
将来糖尿病になりやすいので注意が必要なのです。

糖尿病は、インスリン作用不足(インスリン分泌不足+インスリン抵抗性)がベースにあり、発症します。

日本人では、インスリン分泌不足が主で、インスリン抵抗性が従と言われています。
IGTの段階で、まずインスリン追加分泌が不足、あるいは遷延しています。

それが数年以上続いて、インスリン基礎分泌も不足してきたら、IFGも合併してきます。

一方、欧米人では、インスリン抵抗性が主で、インスリン分泌不足が従とされています。

この場合、インスリン分泌能力はまだあるけれど、
効きが悪い(インスリン抵抗性)ため高血糖となります。

そうすると、インスリン抵抗性のため、
基礎分泌のインスリンの量では早朝空腹時血糖値がやや高いけど、
追加分泌は大量に出せるので食後高血糖は防いでいるというIFGの人が、
日本より高率に存在する可能性があります。

日本人でも肥満が目立つ人は、
インスリン抵抗性が主の欧米パターンの糖尿病発症もありえます。

この場合、早期に発見できれば、インスリン分泌能力は残っているので、
肥満が改善してインスリン抵抗性が改善すれば、
糖尿病がほぼ治ったごとくになることもあり得ます。

ともあれ、IGT、IFG、IFG/IGTの段階で発見できればおおきなアドバンテージです。
この段階でなら、緩やかな糖質制限食でも、糖尿病発症は防げると思いますよ。ヾ(^▽^)


勿論、すでに糖尿病と診断された人は、スーパー糖質制限食が最適です。


江部康二