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HbA1cが低ければ、太っていても健康になれるのか。
【23/03/26 うさこ
ダイエットについて
こんにちは

HbA1cが低ければ、太っていても健康になれるのかという質問です。

私は、スーパー糖質制限を始めて約6年、
1日の糖質摂取量は30~40gほどです。
アルコールは毎日、多分2〜3合(焼酎、ウイスキー、糖質ゼロビール、糖質ゼロ日本酒、赤ワインなど)を飲みます。

年齢49歳(女)身長154cm・体重は開始時89kg→5ヶ月後65kg→1年後以降は71〜74kgで
カロリーも減らさないと糖質制限のみでは痩せないタイプです。

開始当初はジムにも半年ほど通い、
カロリーも制限したので65kgまで減量しましたが
その後はカロリーをなかなか制限できず、体重は停滞ぎみです。

更年期も影響したのか、鉄欠乏性貧血になり、
2021年11月よりフェロミア錠を服用しています。
HbA1cは5%、Hbは12.3g/dL、赤血球数393万/μL、フェリチン15.7ng/ml

アレルギー体質で花粉症などはあるものの、
1〜2ヶ月に1度はひいていた風邪も、この6年、ひいていません。
HbA1cの数値を現状維持できれば、
このまま減量できなくても健康になれるのでしょうか?

よろしくお願いします。】


こんにちは。
うさこさんから、
【HbA1cが低ければ、太っていても健康になれるのか】
という質問を頂きました。


Ⅰ <HbA1cの数値とがん>

2019年の日本人の死因の順位は2018年と同様、
第1位「悪性新生物(腫瘍)」、
第2位「心疾患(高血圧性を除く)」、
第3位「老衰」、
第4位「脳血管疾患」、
第5位「肺炎」

でした。

死因の1位はがんです。
がんが死因に占める割合は、年齢とともに高くなっていきますが、
男性では65~69歳がピークで、この年代では、
がん死亡は死因全体の半分弱を占めます。
女性では55~59歳がピークで、死亡の6割近くが、がんによるものです。

国立がん研究センターがん予防・健診研究センター・予防研究グループの多目的コホート研究(JPHC研究)から、
興味深い報告がなされ、論文化されました。
ろんぶんの結論は、
『肝がんを除外すると、HbA1c値は直線的に全がんリスク上昇と関連』
ということです。
肝がんは、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスが大きな要因を占めていて
『感染症型のがん』 です。
すなわちこの感染症型がんの肝がんを除いたら、
生活習慣病型のがんは、HbA1cが低いほど、発症しにくいというエビデンスがあると
言えます。
うさこさんは、少なくともがんに関してはHbA1cが5.0%ならリスクは
かなり少ないと考えられます。



Ⅱ <肥満と総死亡率>
【年齢49歳(女)身長154cm
・体重は開始時89kg→5ヶ月後65kg→1年後以降は71〜74kg】


154cm。
89kg(BMI:37.5) ⇒ 65kg(BMI:27.4)⇒ 71~74kg(BMI:29.9~31.2)


1)世界ガン研究基金の報告(2007)では、ガン予防にはBMI:20~25未満 が目標。
2)ランセットの論文では欧米人はBMI:22.5~25 が総死亡率が一番低い。(*)
3)ニューイングランド・ジャーナルの論文では、アジア人はBMI:23~27 が 
  総死亡率が一番低い。(**)


1)2)3)を考慮すれば、
体重に関しては、BMI:20 は確保する方が、安全といえます。
総死亡率を低下させて、がん予防するには、BMI20以上で25未満が最も推奨されます。

(*)
Prospective Studies Collaboration
PSC, Whitlock G, et al. Lancet 2009; 373: 1083-96

(**)
Zheng W, et al.N Engl J Med. 2011 Feb 24;364(8):719-29.
Association between body-mass index and risk of death in more than 1 million Asians.


このように、痩せ過ぎは良くないので、BMI20は確保しましょう。
一方、アジア人はBMI:23~27 が総死亡率が一番低いです。
そうするとうさこさんのBMI 29.9~31.2は、さすがに多いです
総死亡率を減らすには、BMI27以下を目指しましょう。


 【アレルギー体質で花粉症などはあるものの、
1〜2ヶ月に1度はひいていた風邪も、この6年、ひいていません。
HbA1cの数値を現状維持できれば、
このまま減量できなくても健康になれるのでしょうか?】


糖質制限食で健康度が向上していて、望ましいです。
ただ、肥満も健康上のリスクなので改善を目指しましょう。


<結論>

Ⅰ、Ⅱ、Ⅲより
うさこさんは、6年間の糖質制限食実践で体調良好であり、がんのリスクは低いものの、
肥満による総死亡率上昇のリスクがあります。
折角ですから、BMI27まで改善させて、健康長寿を目指しましょう。


江部康二
2023年4月16日(日)、医療従事者の方を対象にセミナーを開催。
おはようございます。

2023年4月16日(日)、医療従事者の方を対象にセミナーを開催いたします。

「医療従事者向け糖質制限食セミナー」<東京&オンライン>
2023年4月16日(日)12:30~17:00


参加方法は、東京での会場参加かオンライン参加かを選択していただけます。

第1部は高雄病院の橋本眞由美 管理栄養士による講義です。

第2部は私による講義で、糖質制限食指導に必要な生理学的基礎理論の解説や症例検討などを行います。

第3部は発表・討議で、糖質制限食の指導を行っておられる6名の医師の方々に発表いただき、 ディスカッションを行います。

6名の医師は勿論、高雄病院勤務ではありません。

参加者皆で、活発な討論を行い、実のあるセミナーにしたいと思います。
当日セミナー終了後に、会場参加者でご希望いただく方々との懇親会(食事会)も催すことになりました。
私も3年ぶりの懇親会、歓談が楽しみです。

江部康二

以下、事務局からのお知らせです。

***********

ブログ読者の皆様、いつも弊会のイベントへ多数ご参加いただきましてありがとうございます。

本日は、医療従事者向けセミナーの開催をご案内申し上げます。
2023年4月16日(日)、医療従事者の方を対象にセミナーを開催いたします。

参加方法は、東京での会場参加かオンライン参加かを選択していただけます。

第1部は高雄病院の橋本眞由美 管理栄養士による講義で、高雄病院の糖質制限食と栄養指導について、コロナ禍の影響や患者様の様子なども交えてお話しいたします。

第2部は江部理事長による講義で、糖質制限食指導に必要な生理学的基礎理論の解説や症例検討などを予定しております。

第3部は発表・討議で、糖質制限食の指導を行っておられる6名の医師の方々に発表いただき、 ディスカッションを行います。

医療従事者向けセミナーは、医療機関での糖質制限食指導の普及促進、ブラッシュアップ、発展を目指して2013年より開催しております。

また、2019年3月のセミナーより、臨床で糖質制限を採り入れておられる医療従事者の方々に発表いただき、指導法や症例などの共有、意見交換をしていただく「発表・討議」の時間を設け、参加いただいた方から、大変参考になる、刺激になる等ご好評いただいております。

今回も多様なテーマで6名の医師の方々にエントリーしていただいております。

医療従事者の皆様のご参加を心よりお待ちしております。

*セミナー後懇親会開催のお知らせ

セミナー終了後、会場参加者様でご希望の方を対象に懇親会(食事会)を催します。
セミナーの会場参加をお申し込みいただいた際に、詳細をご案内申し上げます。

*セミナー情報URL:http://www.toushitsuseigen.or.jp/activity

//////////////ご案内/////////////////


一般社団法人 日本糖質制限医療推進協会主催
「医療従事者向け糖質制限食セミナー」<東京&オンライン>

■日時:2023年4月16日(日)12:30~17:00頃

■会場:アットビジネスセンター東京駅八重洲通り 604号室

〒104-0032 東京都中央区八丁堀1-9-8 八重洲通ハタビル 6階
https://abc-kaigishitsu.com/tokyo_yaesudori/access.html

■内容:

◇第1部:「糖質制限食による糖尿病指導① ~高雄病院の食事と栄養指導」12:30~

 講師: 橋本 眞由美 管理栄養士 / (一財)高雄病院 栄養科

◇第2部:「糖質制限食による糖尿病指導② ~理論と臨床」 13:20頃~

 講師: 江部 康二 医師 
    (一財)高雄病院 理事長/(一社)日本糖質制限医療推進協会 理事長

◇第3部: 「発表・討議」 15:05頃~

・「糖質制限治療の実践症例 ~年間のべ1,000名を超える外来指導より見えるもの」
 佐藤 信昭 医師 / 茅ヶ崎徳洲会病院(神奈川)  副院長(内科)

・「対話する糖質制限医療 ~糖質制限を指導してはいけない!?」
 田頭 秀悟 医師 / たがしゅうオンラインクリニック 院長

・「高LDL-C血症に対する中等度糖質制限食と筋力トレーニングの組み合わせの効果について」
 宇佐見 啓治 医師 / うさみ内科(福島) 院長

・「糖質制限と薬理学的糖質制限の失敗から学ぶ糖質中毒~糖質依存症のメカニズム~」
 影山 広行 医師 / 株式会社ドクターバンク

・「カンボジアにおける『ほろ酔い低糖質食セミナー&パーティー』の実施」
 奥澤 健 医師 / ケンクリニック(カンボジア) 院長

・「糖質制限食の導入の実際 ~フリースタイルリブレプロを用いて」
 髙橋 裕彦 医師 / たかはし整形外科医院(香川) 院長

*第3部は、発表10分・討議6分ずつを予定しております。

*第3部の発表者様の中には、オンラインで発表される方もいらっしゃる予定です。

*第1部・第2部の映写資料データ(PDF)は、後日ダウンロードしていただけます。

*当日のセミナー動画は、後日一定期間ご覧いただけます。(セミナー参加予約者様限定)

■参加対象:

医療従事者の方(医師、歯科医師、薬剤師、看護師、栄養士、理学療法士、鍼灸師など)

■受講費:

1.会場参加(東京会場へご来場の方)

・医師・歯科医師の方: 賛助会員 6,800円 / 一般(会員以外) 8,500円

・上記以外の医療従事者の方: 賛助会員 4,800円 / 一般(会員以外)6,000円

2.オンライン参加

・医師・歯科医師の方: 賛助会員 7,200円 / 一般(会員以外) 9,000円

・上記以外の医療従事者の方: 賛助会員 5,200円 / 一般(会員以外)6,500円

<オンライン参加についての補足・ご案内>

*Zoomを使用して行います。

・スマートフォンでもご参加可能ですが、パソコンかタブレット端末でご参加いただくと、画面が大きいため、スライド資料を閲覧しやすいです。

・事前に招待URLをお送りし、当日はそのURLにアクセスして、オンライン受講(参加)していただくかたちとなります。

・詳細はご予約後にご案内申し上げます。

・Zoomの挙手機能を使用して、オンライン参加の方も質疑応答や討議で挙手・発言していただる予定です。

■お支払い方法:クレジットカード/銀行振込/郵便振替 ※事前決済のみとなります。

※領収書をご希望の場合は、領収書宛名もお知らせ願います。

■お申し込みの流れ:

1. 下記「お申し込み方法」の該当するものからお申し込み下さい。
2. 事務局よりお支払い方法についてメールでご連絡します。
3. 入金確認後、予約確定のメールをお送りします。

■お申し込み方法:

★賛助会員の方:
事務局へメールにて、
①会場 or オンライン、どちらでの参加ご希望か
②医療機関でのご職種
をご記入の上、お申し込み下さい。

★賛助会員入会をご希望の方:

1. 入会案内および会員規約をお読み下さい。
http://www.toushitsuseigen.or.jp/sign-up

2. お申し込みは下のフォームからお願いします。
「入会ならびに講演会等出席に関するお問い合せ」をご選択下さい。
「通信」欄には、以下をご記入下さい。
① 「4/16セミナー、会場 or オンライン(←ご希望の参加方法をご記入下さい)参加希望」 とご記入下さい。
② 医療機関でのご職種をご記入下さい。
http://www.toushitsuseigen.or.jp/contact

★一般(会員以外)で、セミナーの受講のみご希望の方:

下のフォームからお申し込み下さい。
http://www.toushitsuseigen.or.jp/seminar-med

■その他:

・予約制です。当日参加はできません。
・キャンセルは4月14日(金)までに事務局へご連絡願います。それ以降のご返金は対応致しかねますので予めご了承下さい。
人体のエネルギー源、「脂肪酸-ケトン体」「ブドウ糖-グリコーゲン」。
おはようございます。
今回は復習を兼ねて、人体のエネルギー源について考察してみます。
 
まず、知っておきたい重要なことは、
全ての人類において、糖質摂取の有無にかかわらず、
空腹時や睡眠時は、「脂肪酸-ケトン体」が主要なエネルギー源であるということです。
 
つまり、「脂肪酸-ケトン体」エネルギーシステムは、特殊なものではなく
全人類で日常的に利用されているエネルギーシステムなのです。
 
繰り返しますが、
普通にパンやご飯を食べている人においても(糖質カットしていなくても)
空腹時や睡眠時は「脂肪酸-ケトン体」エネルギーシステム
が主たるエネルギーシステムとして働いているのです。
糖質を摂取している場合は、食事開始から2時間までは
食事由来の糖質をエネルギー源として利用し
その後肝臓のグリコーゲン分解で血糖値を維持し、
数時間後(空腹時)には、肝臓の糖新生で血糖値を維持するようになります。
この数時間後(空腹時)には、前述の如く
「脂肪酸-ケトン体」エネルギーシステムが身体の主たるエネルギーシステムとなります。
 
糖質制限食の場合は、食事を開始したあとも、血糖値の上昇が最小限なので
「脂肪酸-ケトン体」エネルギーシステムが稼働しています。
つまり、ステーキを食べている最中にも脂肪が燃えています。
それで、糖質セイゲニストは減量しやすいのです。
 
さて、人体のエネルギー源のお話しを続けます。
細胞が生きていくには、エネルギー源が必要です。
今日のお話しは基本的に論争の余地のない、生理学的事実が中心です。
少し面倒くさいですが、この人体のエネルギーシステムのことがあるていどわかったら、
糖質制限食のことも含めて、常識の壁を越えるきっかけとなると思います。
糖新生のことも説明したいと思います。


人体にはエネルギー源として、

1)「脂肪酸-ケトン体のシステム」


と、

2)「ブドウ糖-グリコーゲンのシステム」

があります。

<人体のエネルギー源Ⅰ:脂肪酸-ケトン体システム>

①脳はケトン体(脂肪酸の代謝産物)をいつでも利用できる。
②心筋・骨格筋など多くの体細胞は日常生活では脂肪酸-ケトン体が主エネルギー源であり、人体を自動車に例えるならガソリンの代わりは脂質である。
③赤血球を除く全ての細胞はミトコンドリアを持っているので、脂肪酸-ケトン体エネルギーシステムを利用できる。
④糖質制限食実践中や絶食中の血中ケトン体上昇は、インスリン作用が保たれており生理的なもので病的ではない。農耕開始前の人類は皆そうであった。
⑤備蓄の体脂肪は大量にあるエネルギー源で、体重50kg、体脂肪率20%の成人なら
 10kgで90000キロカロリーあり、水だけで2ヶ月生存できる。
⑥肝臓はケトン体を、脂肪酸から生成するが、自分では利用せずに、他の組織に供給する。



<人体のエネルギー源Ⅱ:ブドウ糖-グリコーゲンシステム>


①人体で赤血球だけはミトコンドリアがないのでブドウ糖しか利用できない。
②日常生活でブドウ糖を主エネルギー源として利用しているのは赤血球・脳・網膜など。
③ブドウ糖-グリコーゲンエネルギーシステムの本質は
 「常に赤血球の、唯一のエネルギー源」
 「筋肉が収縮したときのエネルギー源」→緊急時のターボエンジン
 「血糖値が上昇しインスリンが追加分泌された時、筋肉・脂肪細胞のエネルギー源」
 「日常生活では脳・網膜・生殖腺胚上皮など特殊部位の主エネルギー源」
④備蓄グリコーゲンは極めて少量で、成人で約250gていどである。
 約1000キロカロリーしかなく、強度の高い運動なら1~2時間で枯渇してしまう。



ここで大切なことは、日常生活では、骨格筋・心筋を始めほとんどの体細胞は、
主エネルギー源として、備蓄がたっぷりある「脂肪酸-ケトン体システム」を利用しているということです。

即ち、人体を自動車に例えれば、ガソリンの代わりは脂肪酸-ケトン体であり、
決してブドウ糖-グリコーゲンではありません。

例えば、心筋がブドウ糖を主たるエネルギー源として利用したりしたら、
グリコーゲンの備蓄は約250gしかないので、
いつ枯渇して止まるかもしれませんね。

日常生活で、ブドウ糖をエネルギー源としているのは、
「赤血球・脳・網膜・生殖腺胚上皮」といった特殊な細胞だけです。

糖質制限食実践中は脂肪酸-ケトン体を主たるエネルギー源として、
しっかり利用しているので、エネルギー不足には決してなりません。
人類700万年の歴史の内、農耕開始前は
人類皆糖質制限食だったことをお忘れなく。

糖質を摂取したときは、血糖値が上昇し追加分泌のインスリンが出て、
筋肉でブドウ糖を利用させます。
食物吸収が終了した直後には、肝臓のグリコーゲン分解が、
循環血液中に入るブドウ糖の主要な供給源です。
食後数時間が経過し、絶食状態が持続すると、
ブドウ糖の供給源は、肝のグリコーゲン分解から糖新生に切り替わります。
食後この時間帯になると筋肉や体細胞のほとんどは、
「脂肪酸-ケトン体のシステム」をエネルギー源として利用するようになります。

<糖新生>
肝臓の糖新生は、ブドウ糖しか利用できない「赤血球」などのために、
最低限の血糖値を確保するために日常的に行われています。
ですから、人類の700万年の歴史において、
ごく普通に日常的に毎日、肝臓の糖新生は行われてきたわけで、
珍しいことでも何でもありません。

肝臓の糖新生は、脂肪酸の代謝産物のグリセロール、
筋肉から供給されるアミノ酸(アラニン、グルタニン)、
ブドウ糖代謝の産物の乳酸などから行われます。
肝臓は筋肉由来のアミノ酸などから日常的に糖新生を行っていますが、
筋肉ではタンパク質の分解と合成が毎日行われています。

①脂肪組織→グリセロール(脂肪酸の分解物)や脂肪酸→肝臓→糖新生→脂肪組織・筋肉
②筋肉→アミノ酸→肝臓→糖新生→筋肉・脂肪組織
③ブドウ糖代謝→乳酸→肝臓→糖新生→筋肉・脂肪組織

①②③はごく日常的に人体で行われており、
肝臓、筋肉、脂肪組織の間で行ったり来たりしながら、
日々糖新生の調節が行われているわけです

700万年間の人類の歴史の中で農耕前の狩猟・採集時代は、
糖質制限食を摂取しているか、空腹や絶食や飢餓が日常的でしたので、
肝臓は毎日、今以上に糖新生を行い、
よく働いてきたしそれだけのキャパシティーを持っているということですね。

糖質制限食実践中は、脂肪酸-ケトン体エネルギー源がたっぷり利用できますので、
決してエネルギー不足にはなりません。
糖質制限食の場合は、食事からのブドウ糖供給が極めて少ないので、
食事中でも、肝臓の糖新生は行われています。
肝臓の糖新生は脂肪を燃やして賄われて結構エネルギーを消費するので
痩せやすいのです。

なお肝臓の糖新生は、人体全体のエネルギー源を確保しているのではありません。
ブドウ糖しか利用できない「赤血球」という特殊な細胞と、
日常的にブドウ糖を利用している脳や網膜などのために、
最低限の血糖値を確保しているのです。


<タンパク質>

次に三大栄養素のうちタンパク質は、
エネルギー源として使われることはありえますが、基本的に少ないです。
タンパク質は、主として人体の組織の材料として使われています。

適切なエネルギー源が確保されていれば、
食事から摂取したタンパク質(アミノ酸)は、
人体に吸収されて組織のタンパク質合成に使われます。

タンパク質を主たるエネルギー源として使われざるを得ないときは、
例えば「飢餓→絶食」が続いたときなどです。
体内の糖質、脂質をエネルギー源として使い果たした後は、
やむを得ず筋肉細胞のタンパク質を主たるエネルギー源として使いますが、
これは死の一歩手前です。


江部康二
インスリンの功罪③。農耕前、狩猟・採集時代のインスリンの役割。
こんばんは。

今回はインスリンシリーズの3回目です。
農耕前、狩猟・採集時代のインスリンの役割について考察してみます。

 細胞がブドウ糖を取り込むためには「糖輸送体」という特別なタンパク質が必要です。
英語の頭文字からGLUT(グルット)と呼ばれ、現時点でグルット1〜グルット14までが確認されています。
正式にはグルコーストランスポーター(glucose transporter)です。
 このうちグルット1は赤血球・脳・網膜などの糖輸送体で、脳細胞や赤血球の表面にあるため、
血流さえあればいつでも血液中からブドウ糖を取り込めます。
 これに対して筋肉細胞と脂肪細胞に特化した糖輸送体がグルット4で、
ふだんは細胞の内部に沈んでいるのでブドウ糖をほとんど取り込めません。
しかし血糖値が上昇してインスリンが追加分泌されると、
細胞内に沈んでいたグルット4が細胞表面に移動してきて、ブドウ糖を取り込めるようになるのです。
グルット14種の中でインスリンに依存しているのはグルット4だけです。

 インスリンとグルット4の役割を、農耕が始まる前の時代までさかのぼって考えてみました。
 グルット4は、糖質過剰摂取時代の今でこそ獅子奮迅の大活躍なのですが、
農耕前はほとんど活動することはなかったと考えられます。

すなわち農耕後、日常的に穀物を食べるようになってからは
「食後血糖値の上昇→インスリン追加分泌→グルット4が筋肉細胞・脂肪細胞の表面に移動→ブドウ糖を細胞内へ取り込む」
というシステムが、毎日食事のたびに稼働するようになったのです。

 しかし、狩猟・採集時代には穀物はなかったので、たまの糖質摂取でごく軽い血糖値上昇があり、
インスリン少量追加分泌のときだけグルット4の出番があったにすぎません。
運よく野生の小さな果物やナッツ類や自然薯などが採集できた場合のみです。

この頃は、血糖値は慌てて下げなくてはいけないほど上昇しないので、グルット4の役割は、
筋肉細胞で血糖値を下げるというよりは、
脂肪細胞で中性脂肪をつくらせて脂肪組織に蓄えて、
来たるべき冬の飢餓に備えるほうが、はるかに大きな意味を持っていたと思います。

 すなわち、農耕前は「インスリン+グルット4」のコンビは、
たまに糖質(野生の果物やナッツ類)を摂ったときだけ、
もっぱら中性脂肪の生産・蓄積システムとして活躍していたものと考えられます。

狩猟・採集時代の「インスリン+グルット4」は、
もっぱら飢餓に対するセーフティーネットとして貢献していたと思われます。
また、摂取した糖質は肝臓にも取り込まれてグリコーゲンを蓄えますが、
あまった血糖が中性脂肪に変えられて脂肪細胞に蓄えられます。

このようにインスリンの中性脂肪蓄積システムは、長い間、
人類の生存におおいに貢献してきた
のですが、
いまは日常的に1日に3~5回糖質を摂取する時代です。

このため「インスリン+グルット4」のコンビは今や「肥満システム」と化してしまい、
インスリンは肥満ホルモンと呼ばれるようになってしまったのです。


江部康二
インスリンの功罪②。インスリンの役割を中心に。

1) 
基礎分泌インスリンは、ヒトの生命維持に必要不可欠です。 

2) 
スーパー糖質制限食でも、基礎分泌の2~3倍レベルのインスリンは分泌されますし、 追加分泌インスリンも必要不可欠です。 

3)
インスリン注射で、1型糖尿病患者の命が助かるようになり、
近年、寿命が延びてきました。

4) 
一方、過剰なインスリンは、酸化ストレスとなり、がん、老化、動脈硬化、
糖尿病合併症、アルツハイマー病などのリスクとなります。 



こんにちは。

今回はインスリンの功罪のうち、主としてその役割について考察してみます。

インスリンには、24時間継続して少量出続けている基礎分泌と、
糖質を摂取して血糖値が上昇したときに出る追加分泌の2種類があります。

タンパク質摂取でも少量のインスリンが追加分泌されますが、脂質摂取では、インスリンは追加分泌されません。
これでまず解るのは、食物を摂取していないときでも、人体の代謝には、少量のインスリンが必須ということですね。
このインスリンの基礎分泌がなくなったら、人体の代謝全体が崩壊していきます。
つまり、基礎分泌のインスリンがないと、全身の高度な代謝失調が生じ、生命の危険があります。

例えば「運動をしたらインスリン非依存的に血糖値がさがる」といっても、
インスリン基礎分泌が確保されているのが前提のお話です。

もし、基礎インスリンが不足している状態で運動すれば、運動で血糖値はかえって上昇します。
また、肝臓で行っている糖新生も、基礎インスリンが分泌されていなければ制御不能となり、
空腹時血糖値が300mg/dl~400mg/dl、或いはこれ以上にもなります。
また、糖質を食べて血糖値が上昇したとき、追加分泌のインスリンがでなければ、高血糖が持続します。
高血糖の持続は糖毒といわれ、膵臓のβ細胞を傷害し、インスリン抵抗性を悪化させます。

急激に発症するタイプの1型糖尿病であれば、短期間でインスリン分泌がゼロになるので、
基礎分泌も追加分泌もなくなり血糖値が急上昇して、
随時で250~500mgとか600mg/dl以上1000mgにもなります。

細胞はブドウ糖を利用できないので、脂肪の分解産物のケトン体が急上昇し、
エネルギー源にしますが、酸性血症となり意識障害を生じ、放置すれば死に至ります。
インスリン作用が欠落しているときの血中ケトン体上昇は病態であり、極めて危険です。

上述のインスリン作用欠落による糖尿病ケトアシドーシスは、
インスリン作用が確保されていて糖質制限食や断食で
生理的にケトン体が上昇する場合とは、まったく異なる病態です。

さてブドウ糖が、細胞膜を通過するためには、特別な膜輸送タンパク質が必要です。
それが糖輸送体(GLUT)であり、現在GLUT1~GLUT14まで確認されています。
GLUT1は赤血球・脳・網膜などの糖輸送体で常に細胞の表面にあり、血流さえあれば即血糖を取り込めます。
これに対して筋肉細胞と脂肪細胞に特異的なのがGLUT4で、
基礎分泌のインスリンレベルだと、通常は細胞内部に沈んでいます。

GLUT1~GLUT14の中で、インスリンに依存しているのはGLUT4だけで特殊です。
筋肉細胞と脂肪細胞にあるGLUT-4は、インスリン追加分泌がないと細胞内に沈んでいるのでブドウ糖を取り込めません。
インスリンが追加分泌されるとGLUT-4は細胞表面に移動して血糖を取り込むのです。
このようにインスリンは、生命の維持に必須の重要なホルモンであることが確認できました。
また近年、1型糖尿病患者の寿命は延びています。

以下、糖尿病ネットワークから一部抜粋。
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2016/024725.php
1975年に米国で行われた調査では1型糖尿病患者の寿命は、健康人に比べて27年短いとされていました。
スコットランドのダンディー大学が2万4,691人の1型糖尿病患者を対象に行った調査では、
20代前半の糖尿病患者の予想される平均余命は、
健康な人に比べ男性で11.1年、女性で12.9年短いという結果になりました(2015年1月報告)。

このようにインスリンの使用法や種類が改善されたことで、1型糖尿病患者の寿命はかなり改善されてきています。
インスリン注射が、おおいに役に立っているわけです。


☆☆☆インスリンの作用
インスリンは、グリコーゲン合成・タンパク質合成・脂肪合成など、栄養素の同化を促進し、筋肉、脂肪組織、肝臓に取り込む。
インスリンが作用するのは、主として、筋肉(骨格筋、心筋)、脂肪組織、肝臓である。

1)糖質代謝

*ブドウ糖の筋肉細胞・脂肪細胞内への取り込みを促進させる。
*グリコーゲン合成を促進させる。
*グリコーゲン分解を抑制する。
*肝臓の糖新生を抑制し、ブドウ糖の血中放出を抑制する。

2)タンパク質代謝
*骨格筋に作用してタンパク質合成を促進させる。
*骨格筋に作用してタンパク質の異化を抑制する。

3)脂質代謝

*脂肪の合成を促進する。
*脂肪の分解を抑制する。



江部康二